AI(人工知能)のおかげで、さまざまな分野で仕事が効率化しています。
もちろん、AIのような技術を活用した機械化や自動化によって仕事が奪われたり、変化を余儀なくされるという主張もありますが、対立関係だけでは語ることはできません。
AIを使うことで、好みの服をチョイスしてもらったり、ダイエット中の献立を考えてもらったり、今後成長が期待できる銘柄の株を保有資産に応じてポートフォリオ化したりすることが簡単になります。さらに、AIはデザインの世界にも進出してきています。写真や動画を解析するのはもちろん、AIは絵を描いたりホームページをデザインしたりすることもできるようになりました。
もしかしたら、これまでデザインを仕事にしていた人たちは、仕事が奪われるのではないか、と心配になっているかもしれません。
しかし、作ることだけがデザイナーの仕事だけではないと言われていますが、デザイナーは何をデザインすべきなのでしょうか。
AIによって便利になったデザインの仕事
1. ホーム ページ 作成
ホームページを無料で作成できるWebサービスにWixがありますが、Wixでは「ADI (人工デザイン知能=Artificial Design Intelligence)」と呼ばれるAIを使って、簡単に高品質なホームページを作成するサービスを発表しました。
また、The Gridでは、「Molly」と呼ばれるAIによって、24時間365日、美しい レイアウト でホームページを作成してくれます。
PageCloudも同様に、 SEO にも優しいホームページを、いくつかの質問に答えるだけで作れてしまいます。
Firedropを使えば、「Sacha」というAI Webデザイナーとチャットをしながらホームページを作成することだってできます。
こうしたサービスが一般化すれば、ホームページビルダーやDreamweaverなどのソフトを使ったり、 テキスト エディターを使って冗長なコーディングを行わなくても、ホームページが簡単に作成できてしまいます。
その意味では、Webデザイナーの仕事は岐路に立たされています。
2. ロゴデザイン
ロゴデザインの世界でも、AIの活用は進んでいます。
この分野では、Traitor BrandsやLogojoy、LogojoyなどがAIや機械学習のノウハウを活用して、豊富なバリエーションの中からロゴデザインを作成してくれます。
しかも、こうしたサービスは、サービスや企業の名前を入力して、好みを答えていくだけで、3分もあれば作成できます。
これまでデザイナーに2週間以上もかけて発注していたのが、時間もコストも短縮されてしまいます。
Illustratorのような専用ソフトを使わなくてもいいので、専門家でなくとも気軽に扱うことができる反面、ロゴデザインを仕事にしていた人々にとっては別の方向性を考える必要性が出てきました。
AIによって仕事は奪われる?
AIの議論になると必ず出てくるのは「AIは人間から仕事を奪う」ということです。
デザインの世界も例外ではなく、人間の代わりに驚くべきスピードとクオリティで製作するサービスが数多く登場していることから、そのように考える人は少なくありません。
クリエイティブの世界でも機械化・自動化は当たり前になりつつあります。
10 年以上前だと、機械によって生成されたコードは汚くて使い物にならなかったことも多かったのですが、最近では経験の浅いコーダーに任せるよりもよりよいものが作られることも日常茶飯事です。
以前は「人の手を使わないと難しい」と思われていた仕事も、今はそのほうが非効率なこともあります。
こうした光景は、産業革命時にイギリスで機械化が広まり、手工業者が「仕事が奪われてしまう」という理由から起こした機械排斥運動(ラダイト運動)を彷彿させます。
しかし、AI のような技術を活用した機械化・自動化を対立関係だけで語るのでは200年前に起きたことを繰り返してしまいます。
「協働」できるのではないか、つまり、AI がデザインをしてくれるからデザイナーが必要でなくなるというより、AI によってさらにデザインの可能性が広がるのではないか、と考えることこそ、デザイナーには必要なのではないでしょうか。
デザインはコモディティ化する?
AIによって作成されたデザインは、ビジュアル的にも非常に美しいので、思わず見とれてしまうほどです。
しかし、そもそも機械学習のアプローチに着目すると、機械学習は膨大なデータを読み込ませることで学習を行い、その学習したパターンを組み合わせてデザインを提案するわけです。
すなわち、AIが提案するのは、これまでのデザインのベストプラクティスであり、ユニークでオンリーワンであるかと言われれば、ちょっと首を傾げてしまいます。
AIが提案するデザインは、コモディティになり得るので、おそらく「どこかで見たことのあるような」デザインが増えていくのでしょう。
その意味では、既存のWebデザインのベストプラクティスから抜け出したデザイナーこそ、存在価値が見いだされます。
昨今のWebデザイントレンドとしてブルータリズムが流行しているのは、AIには絶対に作ることのできない「人間のクリエイティビティへの挑戦」をWebサイトという土俵で表現しようとしているようです。
Webデザイナーは、「デザイナー」(設計士)としての側面よりも「アーティスト」(芸術家)としての側面のほうに重点を置いていかないと、同じようなWebサイトを量産しているだけでは「one of them」(その他大勢の中のひとり)として取り残されてしまいます。
AI時代に、「AIにはできないデザイン」を
デザインのアーティスティックな側面に加えて、デザイナーがもう一つフォーカスを当てるべきなのは、「感情のデザイン」です。
AI時代によりよいデザインをするなら、 ユーザー 心理を今までより一層深く理解するために、人の心理というものがどのように機能するかをより体系的に理解するべきでしょう。
ニューヨークに拠点を構える有名なデジタルエージェンシーHugeの UX ディレクターであるシェリーン・カジム氏は、デザイナーは一般的に強い感情にフォーカスしてデザインを考える傾向にあるが、リアルな感情はもっと複雑なので、デザインするときにはもっと繊細な感情を取り込み、豊かな体験をもたらすべきだと言っています。
チャットボットや会話型AIによる「会話インターフェイス」の普及で、ボットが日常化すれば、ホームページなどをデザインする必要すらなくなるかもしれません。
「会話インタフェース」を使う敷居はとても低いので、ますます多くの ユーザー に浸透するのは、時間の問題です。
しかし、こうした「会話自体のデザイン」を行っていくのも、人間の仕事です。
この場合、こう返答したら ユーザー はこう思う、といった繊細な感情にまでフォーカスしていかなければならないので、必ず人間の力が必要になってきます。
AIによってさまざまなデザインが自動的に作成できるようになったので、確かに私たちの生活は便利になった反面、デザイナーには苦しく思う部分もあるでしょう。
確かに、既存の領域にこだわって変化を拒んでいては淘汰されてしまうかもしれません。
しかし、変化を受け入れ、適応し、AIを活用し、人間にしかできないことにデザインの矛先を向けていくことで、逆に、さらに付加価値が高まることでしょう。