プレスリリース配信大手のPR会社「PR TIMES」は2022年5月17日、調査リリースの掲載基準引き上げを発表した。根拠に乏しい「No.1調査」を排除するのが狙いだ。
No.1調査をめぐっては、一部の悪質業者による恣意的な手法が業界内で問題視されていた。PR TIMESは取材に「プラットフォームとしての信頼性を担保しないといけない」と話す。
客観的根拠の提示を必須に
PR TIMESは商品やサービスなどの広報資料を掲載しており、6万5000社が利用する。月間ページビューは約5000万で、リリースを転載する提携媒体は210ある(数字は2021年度通期決算資料より)。
「お客様満足度」「業界シェア」「人気度ランキング」など、調査結果を紹介するリリースの基準が6月16日から厳格化される。
これまでは「調査期間」の明記のみ定めていたが、「調査機関」「調査対象」「有効回答数(サンプル数)」「調査方法」も必須とした。
最上級表示(口コミNo.1、日本初など)をうたう場合、調査(試験)の結果や専門家の見解、学術文献など客観的根拠の提示を求めている。自社調査を併記するには「自社調べ」と記載のうえ、調査概要の説明が必要になる。商品やサービス、企業の順位付けには、設問(評価項目)と回答選択肢の公開も義務づけた。
また、情報の鮮度を確保するため、調査終了日からリリース配信までの期間を、一部を除き「1年以内」から「6か月以内」に縮めた。
発表資料より
「当協会としては到底看過できません」
「No.1広告」をめぐっては、市場調査会社の業界団体「日本マーケティング・リサーチ協会」(JMRA)が22年1月、調査対象者や質問票を恣意的に設定する”やらせ調査”が横行しているとして、「非公正な『No.1 調査』への抗議状」と題した声明を公表していた。
「生活者の肌感覚を市場調査によって裏付けることはあっても、希望の結果を作り出す市場調査は、マーケティング・リサーチを実施する目的ではない」「『市場調査』に対する社会的信頼を損なうものであるため、当協会としては到底看過できません」(声明より/詳報:「No.1商法」に業界団体が抗議状 市場調査でやらせ横行…「社会的信頼を損なう」「看過できない」危機感あらわ)
PR TIMESの三島映拓取締役は17日、J-CASTニュースの取材に、昨年から基準の見直しの検討を始めたと明かした。「(リリースに)誇大広告や事実誤認に当たるものが散見されるようになった」との課題意識からだ。
読者属性の変化も大きい。元々はメディア関係者向けにリリースを配信していたが、現在では生活者からの直接のアクセスも多く、「事実誤認によって不利益を被ってしまうと問題であろうと考えていました」。
「厳しい対処もやむを得ない」
基準の見直しは、JMRAの声明も参考にしながら進めた。
「我々は調査の専門機関ではありませんし、どこまで踏み込んで言及するのかは難しいと思っていました。ただ、結果を発表いただく際にその根拠となるものを示していただくのは情報の客観性という観点から求めて良いのではないかと考え、具体的な項目に落とし込みました」(三島氏)
掲載数減少による業績への影響もありうるが、「プラットフォームをいかに長期的に成長させるかを大事にしていますので、仮に短期的に掲載数が減ったとしても、その件数を取るためにそぐわない内容を許容してしまうことになれば我々のポリシーにふさわしくない」と判断した。
リリースは「広報活動ではタイミングが非常に重要である」との方針の元、掲載後に目視とシステムで全件確認する。問題があれば修正依頼や削除対応する。三島氏は「プラットフォームとしての信頼性を担保しないといけず、そのためには厳しい対処もやむを得ない」と話す。
(J-CASTニュース編集部 谷本陵)